相続

令和6年4月1日より、不動産の相続登記が義務化されました。推定相続人が相続開始を知ったときから3年以内に相続手続きを行わないと、過料が科せられてしまいます。

法定相続の場合には、故人(被相続人)の配偶者や子が相続人となるのが一般的です。ですが、何らかの事情により法定の相続分以外の配分にしたい、もしくは他の人に遺産を渡したい場合などに有効なのが「遺言書」です。

遺言書がある場合の被相続人の相続財産は、原則として遺言書の内容に従って配分されます。自身の意思を反映させた相続をさせたい場合には、あらかじめ遺言書を準備しておくのが有効です。

遺言書による不動産の相続登記手続きとは

 不動産は誰かにその権利を譲り渡す場合、必ず「名義変更の登記」を行わなければなりません。相続の場合も自動的に名義人が変更されるわけではなく、原則として相続人自身が相続登記を行って初めて自分の財産とすることができます。

遺言書がない場合には、相続人全員が納得する形で話し合う「遺産分割協議」を経てから、相続登記を行わなければなりません。

遺言書がある場合の相続登記手続き

遺言書には、自筆証書遺言書・秘密証書遺言書・公正証書遺言書の3種類があります。この形式の違いによって、登記手続きに必要な手順が異なってきます。

また、遺言書がある場合の相続登記においては、添付書類として遺言書の提出が義務付けられています。

自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言書は、原則遺言者が全文を自筆で書く遺言書です。有効な遺言書となるためには、以下の要件を満たした遺言書でなければなりません。

  1. 遺言者の氏名の記載
  2. 自筆による記載(財産目録を除く)
  3. 作成日付の記載
  4. 作成者の印鑑の押印
  5. 訂正がある場合は遺言者により訂正の様式に従ったもの
  6. 内容が明瞭であるもの
  7. 作成時の遺言者に意思能力が認められること

自筆証書遺言書がある場合には、必ず家庭裁判所で「検認」の手続きを経なければ、有効な書類として扱われません。勝手に開封すると、5万円以下の過料が科される可能性があります。

検認は、遺言書偽造防止などを目的として、家庭裁判所の職員が相続人全員に対して内容を確認してから開封する手続きです。検認を経た遺言書は家庭裁判所によって「検認済証明書」が発行され、相続登記の際に必要な添付資料になります。

もっとも、検認は遺言の内容の有効性を確認する手続きではありませんから、遺言書の成立要件に不備がある場合は、遺言の内容は無効となります。この場合は、遺産分割協議を経てから相続手続きを行います。

また、令和2年7月から法務局に保管を委ねる「自筆証書遺言保管制度」が開始されました。遺言者がこの制度を利用している場合は、偽造・変造の恐れがないため、家庭裁判所の検認が不要とされています。

秘密証書遺言の場合

秘密証書遺言は自分で遺言書を作成した上で、遺言書の存在のみを公証役場で証明してもらう遺言です。

保管者は原則として遺言者ですが、遺言書封印の際に公証人らが立ち会うため、公証役場の遺言検索システムで遺言書の有無を確認できます。

ただし公正証書遺言の場合と異なり、公証人は遺言内容の有効性については確認しません。そのため、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所の検認が求められ、また、内容に不備があれば無効となることがあります。

公正証書遺言の場合

公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言内容を「公正証書」の形で残してもらう遺言書です。公正証書は公証人が作成する法的な書類で、原本は公証役場に保管されます。

公正証書遺言を利用する場合、必ず公証人と利害関係者以外の証人2人が立ち会います。遺言書が遺言者の意思に基づくものであることが客観的に証明でき、また、方式不備によって遺言書が無効になる可能性が低く、偽造の恐れもありません。

そのため、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合と異なり、相続登記の際の家庭裁判所の検認が不要とされています。

遺言書による相続登記のメリット

遺言書がある場合は、ない場合と比較して次のようなメリットがあります。

  • 故人の意思を反映させやすい
  • 準備する書類で遺言書がない場合よりも少なくて済む
  • 遺贈の形で法定相続人以外の人に対しても財産を残せる

遺言書による相続登記に必要な書類とは

遺言書がある場合には、以下の書類を準備して、相続する不動産所在地の管轄法務局で相続登記の申請を行います。

必要書類取得場所対象者備考
遺言書  自筆証書遺言書及び秘密証書遺言書については家庭裁判所の検認が必要
戸籍謄本 (除籍謄本)  本籍地の市町村役場  被相続人被相続人について死亡の記載があるもの
不動産を取得する相続人・被相続人の死亡日以降に発行されたもの
・遺贈の場合は不要
住民票 (附票)住所地の市町村役場被相続人・死亡によって除かれた住民票(附票)が必要
・戸籍の附票に代えることもできる  
不動産を取得する相続人・遺贈の場合でも必要
・戸籍の附票に代えることもできる
 (本籍地の市町村役場で取得する)
・相続登記に必要な相続人全員の住民票(マイナンバー記載のないもの)を準備する
・法定相続情報証明書を利用している場合、法定相続情報一覧図の写しもしくは法定相続番号で住民票に代えることができる
固定資産評価証明書当該不動産所在地の都(市)税事務所または市区町村役場 ・登記申請時の年度のものが必要
 (被相続人が死亡した年度ではない)
・所有者の相続人であれば取得可能
登記識別情報または登記済証
 (遺贈の場合のみ)
法務局被相続人 

この他に、不動産登記で納付すべき登録免許税や、それぞれの書類発行に必要な手数料、必要に応じて相続人らの印鑑証明書などを用意します。

不動産登記の登録免許税は次の計算式で表せます。

登録免許税=不動産の固定資産税評価額✕0.4%

(相続人以外への遺贈の場合は2%)

たとえば、評価額が1,000万円の不動産の登録免許税は、40,000円です。

遺言書による相続登記の流れ

遺言書による相続登記の流れは、以下の通りです。

1. 家庭裁判所での検認手続き(公正証書遺言の場合を除く)

2. 不動産の相続人の確認

3. 不動産相続人による必要書類の準備(遺言書や検認済証明書など)

4. 不動産相続人による登記申請書の作成

5. 不動産相続人による法務局での相続登記申請

1の検認に必要な書類は、以下の通りです。

  • 検認申立書(家庭裁判所の公式サイトからダウンロード可能)
  • 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本

2については、遺言執行者がいないかも確認してください。遺言執行者とは、遺言内容を実現するために、相続財産の管理や手続きを行う権限を持つ人です。相続人ら利害関係者が申し立てて任命される他に、遺言書で指名選任することもできます。

なお、遺言内容に遺贈が含まれている場合には、相続人全員もしくは遺言執行者と、受贈者が共同で遺贈登記を行います。

遺贈登記の場合には、遺言執行者の関与や受贈者の登記手続きが必要になる場合があります。必要書類が相続登記と異なる部分がありますので、詳細は専門家にご相談ください。

まとめ

不動産の相続手続きはさまざまなパターンが考えられ、また、準備する書類も多岐に渡ります。遺言書を準備しておくと、相続人らの負担を軽減でき故人の意思を反映させやすくなりますが、遺言書を有効なものとするためには、相続や遺言に関する専門知識が必要不可欠です。

相続や遺言書に関するお困りごとがありましたら、ぜひ専門家である司法書士にご相談ください。

監修者プロフィール

代表池末 晋介(イケスエ シンスケ)

所有資格

司法書士 登録番号 第488号

簡裁訴訟代理業務認定番号 第401634号

所属団体

群馬司法書士会

全国クレジット・サラ金問題対策協議会会員

ぐんまクレジット・サラ金問題対策協議会幹事

経歴

群馬司法書士会 クレサラ・ヤミ金問題対策委員会委員長

群馬司法書士会 消費者委員会委員長

群馬司法書士会 理事

等を歴任